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ファイナル・ウォー・ファンタジー
太陽の光を奪い取られ「暗黒大陸」で暮らす人間の物語。 「不幸の実」を食べた「人間」と、「幸福の実」を食べた「魔族」の戦い――「7色の神器(虹のように7色に光り輝く、7つの神器)」を巡る戦いを描く。
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目次

 
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プロローグ

体中に深い傷を負った2匹のケモノが、
腹をすかせて、荒野を、さまよっていた。
あわれに思った神は、彼らに「2つの果実」を与えた。

この「2つの果実」は、両方とも同じ形をしていたが、
色だけが違っていた――
それは「黒い色」と「赤い色」をしていた。

「黒い色をした果実」は「不幸の実」であり、
「赤い色をした果実」は「幸福の実」であった。

「不幸の実」を食べたケモノは、のちに「人間」と呼ばれる生命となった。
そして「幸福の実」を食べたケモノは、
のちに「魔族」と呼ばれる生命となった。

***************************

「幸福の実」を食べた「魔族」は、
「魔法」という奇跡を起こす力を、手に入れた。
手を使わずに岩を動かし、
水や火を自在にあやつり、空を飛ぶことさえも出来るようになった。
さらに「魔族」には、約1000年の長寿が与えられた。
大きな力を得た「魔族」は、
豊かな生活を手にして、お互いに争いもせずに、幸せに暮らした。

その一方で「不幸の実」を食べた「人間」は、
魔法を使うことが出来ず、しかも短命であった。
非力な人間たちは、貧しい生活を強いられ、
そのため人間同士の争いが、たえなかった。

この「2つの実」の話は、伝説として、後世に語り継がれていった――

***************************

それから長い時が経過した。

「人間」と「魔族」の2つの種族が、世界を支配していた。
世界は、2つの大陸に分かれていた――
「人間」だけが住む「ネファーンド大陸」と、
「魔族」だけが住む「ミゲルクルス大陸」の2つである。

「2つの大陸」の間には、広大な海が横たわっていたこともあって、
「人間」と「魔族」は、大きな戦いもせずに、長い間、共存していた。

しかし今から1300年前、
「人間」と「魔族」両者の、平和的な共存関係は、終わりを告げた。
そのきっかけとなったのは、大きな天変地異であった――
「人間」だけが住むネファーンド大陸に、太陽が全く昇らなくなったのである。
そのため人間の世界は、「暗黒の世界」と化した。
人間界の荒廃が進み、人心は暗くなり、
これまで以上に、人間同士の争いが増えた。

その一方で「魔族」だけが住むミゲルクルス大陸は、
これまでと変わらず、太陽の光が降り注ぐ、明るい恵みの大地であり続けた。

人間の世界から、太陽が消えた――
この天変地異は、「魔族」の仕業とされた。

人間たちは、口々に叫んだ――
世界支配をもくろむ、悪しき魔法使いどもが、
我々人間を絶滅させるために、ついに行動を開始した!
ヤツらは、魔法を悪用し、人間から太陽を奪ったのだ!

以後、人間たちは、太陽を取り戻すために、
なによりも生き残るために、
邪悪な敵である「魔族」への戦争を開始した。

人間は「7色の神器」を魔族から奪うため、
魔族が住むミゲルクルス大陸への侵攻を繰り返した。

「7色の神器」とは、絶大な魔力がやどっている聖物であり、
虹のように7色に光り輝き、
「幸福の実」と同じ、丸い果実のような形をしていた。
そしてこの「7色の神器」は、全部で「7個」あった。

魔族が人間から太陽を奪った際、
魔族は、この「7色の神器」の力を借りて、
太陽を封印した、といわれてきた。

つまり人間が「7色の神器」を全て、魔族から奪えば、
魔族が太陽にかけた呪縛は、効力を失い、
人間は、太陽を取り戻すことが出来るはずであった。

また「7色の神器」は、7個、全てそろった時、
「魔族」の魔力の源である「幸福の実」を
生み出すことが出来ると伝えられてきた。

つまり人間が「7色の神器」を全て手に入れれば、
「7色の神器」が生み出す「幸福の実」を食べることで、
人間は「魔法」を身につけることができるはずであった。

1300年に及ぶ戦争の中で、
人間は「7色の神器」が安置されている「魔族の聖地」に、
次々と攻撃を仕掛け、
7つある「7色の神器」のうち、6つまでを奪い取った。

これで人間が手にしていない「7色の神器」は、
残すところ、あと1つとなった。
「最後の1つ」さえ手に入れれば、
人間は、魔族にかけられた呪縛から解放され、
太陽の光を取り戻すことが出来るはずであった。
そして「7色の神器」が生み出す「幸福の実」を食べることで、
「奇跡の力(魔法)」を身につけることが出来るはずであった。
そして「人間」こそが、
真の「世界の支配者」となることが出来るはずであった。

人間は「最後の戦い」に打って出ようとしていた。
1300年に及ぶ「人間」と「魔族」の戦いが、
今まさにクライマックスを迎えようとしていた――

 
 

第1章・・・出陣式

「魔族」が住むミゲルクルス大陸への、人間軍の総攻撃は、
いよいよ明日に迫っていた。

蒸し暑い夜の20:00。
今回の軍事作戦の出撃地点となる軍港のそばには、巨大な会場が設けられ、
そこに、何万もの人間の戦士たちが、集結していた。
これから人間軍の最高司令官(ガーセレン聖護国の皇帝)による演説が、
始まるのである。

今回の軍事作戦には、人間の国家・全てが――
30ヵ国以上の人間の国々が、参加していた。
それゆえに、会場に集まった人間の戦士たちの格好はバラバラで、
まるで統一されていなかった。
さまざまな軍服や民族衣装が入り乱れ、
「肌の色」や「顔立ち」まで、それぞれ違っていた。
ただ彼らに共通していたのは、
心に激しく燃え上がる「戦闘心」と「魔族への憎しみ」のみであった。

この雑多な人間軍を、まとめあげ率いるのは、
人間界の中でも最強の国である「ガーセレン聖護国(せいごこく)」の
若き皇帝ラズヘルク4世である。

会場に設けられた壇上には、皇帝ラズヘルクが、ただ1人、立っていた。
そして彼は、眼下に広がる戦士たちを、鋭い目つきで、見下ろしていた。

至るところに設置されている、かがり火が、
戦士たちの横顔を、照らし出していた。

深く息を吸い込むと、皇帝ラズヘルクは、演説を始めた。

「旧き伝説は、伝えている。
魔族は『幸福の実』を食べ、
そして我々人間は『不幸の実』を食べた、と。

『不幸の実』を食べた我々人間に課せられた、その後の運命は、
たしかに不幸なものであった。
我々人間の歴史は、過酷で、そして血塗られた歴史でもあった。
人間は、お互いに争いを続け、さらに太陽の光さえも奪い取られた。

これらの悲劇は、人間が背負いこんだ全ての不幸は、
悪しき魔法使いども――魔族が、もたらしたものである。

我々は明日、この呪いに、永遠に終止符をうつ。
我々人間が、歴史的呪縛から解き放たれる時が、近づきつつある。
『魔族』との歴史的な戦いが、今まさに、はじまろうとしている!」

ウォーという歓声が、戦士たちの間から上がった。
しばらくして歓声が落ち着くと、皇帝ラズヘルクは、演説を続けた。

「これが、我々人間にとって『史上、最後の戦争』となるだろう。
明日から開始される『魔族との戦い』において、
我々人間は、邪悪な魔族どもが巣くう『ミゲルクルス大陸全土』を、
ついに制圧するだろう。
そして我々は『7色の神器』を、全て手に入れるだろう!」

再び大きな歓声が起きた。
皇帝ラズヘルクは、戦士たちに向かって、最後の檄を飛ばした。

「我々人間は、『7色の神器』を全て手に入れることで、
『旧き力(太陽)』を取り戻し、
『新しき力(魔法)』を手に入れる!
1300年に及ぶ『魔族』との、つらく長い戦いが、ようやくこれで終わる!
この歴史的集会に集った諸君!
この戦いに勝利せよ!
偉大なる戦勝を、自らの手で、つかみ取れ!
さすれば我々人間は、平和で豊かな生活を、手にできるだろう!
我々人間は、現世の、あらゆる苦悩から開放されるだろう!
そして再び昇る太陽が、我々の未来を、明るく照らし出すだろう!!」

ウォーーー!という大歓声が、会場をおおった。
それは、遠く大海原にまで鳴り響いた。
拍手は、鳴りやまなかった。
戦士たちをとらえた興奮は、いつまでも、おさまらなかった――
 
 

第2章・・・青竜親衛隊の戦士バル


演説を終えた皇帝ラズヘルクは、会場をぐるりと見渡して、
満足げに何度か、うなずいた。
そして彼は、壇上を降りた。

しばらくして人間軍の参謀総長が、壇上に上がった。
彼は、人間の戦士たちに向かって、命令を発した。
「総員、配備につけ!」

重い鎧を身にまとい、
剣や斧などの様々な武器を手にした屈強な戦士たちが、
いっせいに動き出した。

その戦士たちの中に、1人の17才の若者がいた。
彼の名は、バル。
ガーセレン聖護国(せいごこく)の、青少年・戦闘集団である
「青竜親衛隊」の幹部であった。

彼は180センチくらいある長身の若者で、
黒色の頭髪は、きちんと手入れが、なされている感じであった。

その茶色の瞳は、清潔さと知性が感じられ、
大人っぽい眼差しをしていたが、
彼の全体的な表情から受ける印象としては、
どこか憎めない感じで、自由奔放な子供のような無邪気さを感じさせた。

バルが歩いていると
「おい、バル!」と、後ろから声がした。
バルが振り返ると、友人のトマキオが、小走りでやってきた。

トマキオは、190センチはあろうかという大柄な男で、
彼も、バルと同じ「青竜親衛隊」のメンバーだった。

バルとトマキオは、同い年(17才)であったが、
性格は、対照的だった。
バルは、それほど口数が多いほうでは無かったが、
トマキオは、おしゃべりで底抜けに陽気な男であった。

しかし、この2人は、なぜだか馬が合った。
バルのもとへ、やってくるとトマキオは
ニガ笑いしながら言った。

「ワリィ、お前に伝えるの、すっかり忘れてた。」
そう言うと、1枚の紙を取り出した。

「それは?」とバルが尋ねると
トマキオは答えた。

「さっき部隊長から、乗船表をもらったんだ。
変更があったんだよ。」

「変更?なんだ、またか?
だって、変更があったのは、つい・・・」と言って、
バルが思い出そうとしていると、
トマキオが、バルの言葉をつぐ形で言った。

「・・・2日前だけど、また変更になったんだよ。
なにしろ『史上、最大規模の作戦』だからなぁ、
いろいろゴタゴタが続いているらしいぜ。
なんでも指揮系統の統一も、
あまり、うまくいってないって話だな。」

「この戦争、負けるかもしれない」というイヤな予感が、
一瞬、バルの頭をよぎった。
我にかえったバルは、トマキオに聞いた。
「で、変更になって
俺は、どの船に乗ることになったんだ?」

「オレと同じ『戦艦スターマイル号』だ。
それで、乗船の予定時刻も、22:00じゃなくて、21:00に繰り上げになった。
『船内の作業が、遅れてる』とかで、
『早く乗船して、作業を手伝え』とさ。
さあ早く行こうぜ。」

「そうか・・・でも先に行ってくれないか。
まだ仕事が残ってるんだ。」

トマキオは、けげんそうな表情で、バルに尋ねた。
「仕事・・・?何の?」

「説得だよ。魔族の女の・・・
明日の大遠征には、『大賢者レオンランザの娘(魔族の女)』を、
一緒に連れてかなきゃなんないんだけど、
あの女は、まだ『イヤだ』とか
『一緒に行きたくない』とか言ってるんだ。」

「大賢者レオンランザの娘?」

「ああ。
レオンランザは、つい2年前まで
魔族を率いていた大指導者だった男(魔族)だけど・・・
そのレオンランザの娘(魔族)が、今、地下牢にいるんだ。
で、オレは、これから
その魔族の女に、会いに行かなきゃいけないんだよ。」

「魔族の女・・・・・・ああ、そういや、
この前、お前に聞いたよな。
5年前の戦争の時、捕虜になって、
こっち(人間界)へ連れてこられたとかいう
『魔族の少女』のことか?
・・・で?
今から、その魔族の女に会って、
お前、何すんだよ?」

「いや、だから、
その魔族の女を、これから説得しなきゃならないんだよ。
俺たち人間と、一緒に来るように、
明日、出発する大遠征に、一緒にくるようにな。
でも、あの女は、まだ『一緒に行きたくない』とか
『イヤだ』とか言ってるんだ。」

「『一緒に行きたくない』って・・・・・・
なんだ、出発は明日だぞ。
その女、まだゴネてるのか?」

バルは答えた。
「ああ。
だから俺が『最後の説得』に当たるよう、俺も言われてるんだよ。
ラズヘルク皇帝は、なんとしてでも、
あの魔族の女(大賢者レオンランザの娘)を
俺たち人間と一緒に、戦場へ連れて行きたいらしいんだ。
それで・・・まあ要するに、
あの女には、魔族のヤツらに、話をつけてもらいたいと――
『7色の神器』を、おとなしく俺たち人間に、引き渡すようにな。
なにしろ、あの『エクラーザ』って女は、
『2年前まで、魔族を率いていた
大賢者レオンランザ』の娘だからさ、
あの女の言うことだったら、
魔族の連中も、聞くかもしれないんだよ。
だから・・・もしあの女(大賢者レオンランザの娘)が
俺たち人間に、協力してくれさえすれば、
俺たちは、戦争なんかしないでラクして、
『7色の神器』を、まんまと手に入れることが出来るかもしれないんだ。
でもアイツは『人間には、協力なんかできない』なんて
言ってるんだよ。」

トマキオは、バルに尋ねた。
「で?
これから、お前が
その女(大賢者レオンランザの娘)を説得して、
俺たち人間に、協力させることが出来そうなのか?」

バルは、ため息をつきながら、
強く首を横に振って、言った。
「いや、ムリだろうな。
今まで、オレが何言ったって、
あの女は、聞く耳なんか持たなかったし・・・
それに説得にあたっているのは、俺だけじゃないんだ。
何人ものプロの尋問官が、あの女を説得し続けてるけど、
ぜんぜん成果なんか出てないんだよ。」

そこまで言うとバルは
急に不機嫌な表情になって、ブツブツ言い始めた。

「そもそも俺は、『説得』だの『尋問』だのなんて、
やるガラじゃないんだよ。
甘い言葉で、相手を説得したり、
逆に相手を威圧して、重要な情報を、聞き出したりする・・・
そんなメンドウな『口先だけの仕事』、俺には合わない。
だから俺は最初『こんな仕事イヤだ』って、
上の連中に、ハッキリと言ったんだ。
でも『あの魔族の女は、俺と同じ17才だから、
俺が相手なら、あの女も話しやすいだろう、
それにバルお前は『青竜親衛隊』の幹部で、
責任ある立場なんだから、やれ』なんて言いやがってさ・・・
それで、しょうがなく、オレも引き受けたけど、
それでいて説得の成果が、上がらないと
アイツら(上官)露骨に、不満げな顔をするからなあ。
こっちは、たまったもんじゃない。」

グチを聞き終えたトマキオは
肩をすくめて言った
「・・・ま、俺には、せいぜい
『頑張れ』としか言えないがな。
・・・じゃあ、俺は、先に行ってるけど、
そのメンドウな仕事を済ませたら、
お前も、早く来いよ。」

「ああ、分かった。」
ぶっきらぼうに、そう言うとバルは、
魔族の少女(大賢者レオンランザの娘)が
囚われている地下牢へと向かった。
 
 

第3章・・・魔族の少女エクラーザ

「エクラーザという名の、魔族の少女」が囚われている地下牢は、
今回の軍事作戦の出撃地点となる軍港から
歩いて10分ほどのところにあった。

地下牢の入口まで来たバルに対して、警備兵が敬礼した。
バルも軽く敬礼した。

この20代の、若い警備兵は
今、若者の間で流行っているワニ革のブーツをはいて
両耳には、大きめのピアスをつけていた。

ファッションには、うるさい男で
「こんなダサい警備服、イヤだ」と、よくグチをこぼしていた。

このオシャレな警備兵が、いたって陽気な調子で、バルに声をかけた。
「ようバル、
またエクラーザって子に、会いに来たのか?」

「ああ。」

「それにしても最近、よく来るな。」

「別に俺だって、来たくて来てるわけじゃない。
仕事だから、しょうがないだろ?」

それを聞いたオシャレ警備兵は、ニヤリとして言った。
「仕事?それホントかよ?
仕事じゃなくて本当は、個人的に会いたくて、来てるんじゃないのか?
あのエクラーザって子、魔族とはいえ、
なかなか、カワイイ子だからな!」

それを聞いたバルは、声を上げて笑って言った。
「アンタも知らない間に、冗談が上手くなったな。
そんなわけ無いだろ。
こっちは、こんな面倒な仕事、さっさと足を洗いたいぐらいなんだ。
それに・・・魔族との恋愛関係は、レッキとした犯罪行為だ。」

「そりゃ、そうだがな・・・
ああ、そうだ、デュークって人が、
下で、お前のこと、待ってるぜ。
なんでも、お偉いサンだそうだ。」

「デューク!?
まさか、聖護国(せいごこく)の幹部の、あのデュークか!?」

「ああ、
なんか、そうみたいだな。知ってるのか?」

「一応な。
もちろん、直接、話したことは無いが・・・
悪い評判しか、聞かないヤツだよ。
聖護国の実力者だけど、皇帝の権力を利用して、私腹をこやしてるとか、
自分に盾つくヤツ、気に入らないヤツがいたら、容赦なく、
収容所へ放り込むような事を、平気でする、汚いヤツとか・・・
そんな黒いウワサが、絶えないヤツだ。」

「へえ、そんな感じには、見えなかったけどな。
でもアンタにそう言われてみれば、そんな気もしないでもないな。
でも相手は、お偉いサンなんだから、
ここは、イイとこ見せれば、昇進につながるかもしれないぜ。」

「どうかな・・・
それにしたって、デュークのヤツは、なんでココへ来たんだ?」

「いや、詳しい事は聞いてないから、分からん。」

バルは、強い不安感に、襲われた。
「まさか・・・
エクラーザの説得が、うまくいって無いから
オレの事を、処罰する気じゃないだろうな?
相手は、よりによって、あのデュークだから・・・
何をしでかすか、分からないな・・・」

*******************

バルは、重い鉄扉を開けて、施設の中へ入ると、
らせん状になっている、石造りの階段を降りていった。

下層階まで降りたバルは、
「蒸し暑い外に比べて、地下はヒンヤリしているな」と思った。

地下の冷気を感じながら、
「これから俺は、
デュークに、どんな目にあわされるんだろう」と思った瞬間、
ブルッと身震いがした。

魔族の少女(エクラーザ)が監禁されている牢屋へ通ずる、
狭い通路を歩いていくバルの前に、背の高い1人の男が現れた。

40代前半くらいの、やせぎみで、
青白く、陰険そうで、不気味な表情をした男――
彼が、聖護国の権力者の
リンドン・デュークである。

バルの近くまで来ると、デュークは、静かに言った。
「君が、バル君だね・・・」

多少、不安げに、バルは答えた。
「ええ、そうです。
あなたが来られているのは、入口にいる警備兵に聞きました。
・・・今日は、どういった御用で、こちらへ?」

「『レオンランザの娘エクラーザ』への説得だが・・・
今日は、最後の説得だ。
皇帝陛下のご命令により
私も、君と一緒に、説得を行なうために来たのだ。」

どうやら、オレの事を処罰するために、来たワケじゃ無いらしい――
そう分かったバルは、ホッとした表情で答えた。

「分かりました。
では一緒に、参りましょう。」

***************************

バルとデュークの2人は、エクラーザが監禁されている牢の前まで来た。
地下牢のわきには、剣と鎧を身につけた警護兵が1人、立っていた。

デュークが
アゴで、鉄格子を指しながら、警備兵に対して
「ここを開けろ」と命じた。

警備兵は、カギを取り出すと、鉄格子の扉を開けた。
バルとデュークの2人が、地下牢の中に入り、
床に座り込んでいるエクラーザを、見下ろした。

エクラーザは「魔族」の女である。
「魔族」といっても、
外見的には、ほとんど「人間」と変わりがない姿をしていた。

ただし、魔族は1つだけ、
人間とは、決定的に違っている部分があった――
「魔族」は皆、
「七色に変化する髪」をしていた。

時間とともに、ゆっくりと色が変化する、美しい髪――
これが、外見上の「人間」と「魔族」の
最大の違いである。

バルは、エクラーザと会うまで
「魔族」を見たことが無かった。

しかし「魔族」の容姿が、「七色の髪」を除けば
人間と変わりが無いのを、話で聞いていたので、
「魔族」に対する恐怖心というのは、特に感じていなかった。

バルが、エクラーザと初めて会った時、まず目を引いたのが、
やはりエクラーザの「七色に変化する髪」であった。

さっき警備兵が、バルに対して
「あのエクラーザって子、魔族とはいえ
なかなか、カワイイ子」と評していたが、
確かに、エクラーザは、美貌の持ち主であった。

肌の色は白く、整った顔立ちをしていた。
「七色の美しい髪」は、腰まであった。
彼女の大きな目には、孤独と悲しみが、宿っているように見えた。
5年間に及ぶ、敵側での幽閉生活は、
彼女の心に、暗い影を落としていたのだろう。

彼女は、両手・両足ともに、鉄鎖で縛られており、
体の自由は、全く奪われていた。

少女(エクラーザ)は、無表情で、
バルとデュークの2人を、見つめていた。

デュークがエクラーザに話しかけた。
「決心は、ついたかね。」

エクラーザは、気乗りしない調子で答えた。
「決心・・・何の?」

「明日の遠征に、参加する決心だ。
われわれ人間軍は明日、
君ら魔族が住む大陸――「ミゲルクルス大陸」へ向けて出発する。
もうこれ以上、先延ばしには出来ないのだ。」

「それは、何度も言ったとおり・・・
私は、一緒に行く気は、無いわ。
だから・・・ミゲルクルスへ行くんなら
あなたたち人間だけで行ったら、いいと思う・・・」

このデュークとエクラーザのやりとりを、わきで聞いていたバルは、
「おや?」と思った。

デュークの悪い評判からして、捕虜(エクラーザ)に対してデュークは
もっと傲慢に振舞うのかと思いきや、
エクラーザに対する、デュークの口調や態度には
「敬意」や「礼儀正しさ」すら、感じ取れたからである。

また、なぜだか“この2人(エクラーザとデューク)は、
以前からの、顔見知りなんじゃないか”という気がした。

あくまで明日の大遠征への参加を、
かたくなに拒否するエクラーザの返答を前にしたデュークは、
フーと、ため息をついた。

デュークは、かたわらにいたバルに
「君が、話を進めたまえ」と言うと、
すぐわきの地下牢の壁に寄りかかり、視線を上に向けた。

バルが口を開こうとすると、
エクラーザは、キッパリと言った。

「誰が、何度、なにを言っても同じよ。
私の答えは、変わらないから。」

多少、ムッとした表情で、バルは言った。

「いいかエクラーザ、君に言っておくが、
君が、いくら拒否しても、ムダだ。ムダなんだよ。
拒否したって君は、
ムリやり、戦場(ミゲルクルス大陸)へ連れて行かれるだけだぞ!」

そこまで言い切るとバルは、
多少、声を落ち着けて、言葉を続けた。

「だが出来れば、そうしたくは無い。
君には今回の遠征に、自分の意思で、参加して欲しい。
そして『7色の神器』を、おとなしく俺たち人間に引き渡すよう
魔族の連中に、話をつけてもらいたい。
君は『魔族の実力者だった男レオンランザ』の娘だ。
君の父親のレオンランザは、
つい2年前まで、魔族の最高指導者だった男だろ?
君は、それだけのオエライさんの娘なんだから・・・
君の言うことなら、魔族の連中も、耳を傾けるだろ?
なにしろ魔族は、『高貴な血』を
非常に、重視する種族だからな。
俺たち人間としては、『7色の神器』さえ手に入れば、何も言うことは無い。
だから・・・君が、人間に協力してくれさえすれば、
人間と魔族、お互い、ムダな戦いをせずに済むかもしれないんだよ。」

しばらくしてから、エクラーザは言った。
「・・・私が何を言っても、魔族たちは『7色の神器』を、
あななたち人間には、渡さないと思う。
だから・・・私をミゲルクルス大陸へ連れて行くだけ、ムダよ。」

「それは、やってみないと分からないだろう。
とにかく今は、君の協力が必要なんだ。」

このバルの訴えに、エクラーザは何も答えなかった。
たたみかけるようにバルは、エクラーザに言った。

「なあ頼むよ、エクラーザ。
魔族が、おとなしく『7色の神器』を渡してくれさえすれば、
人間と魔族、お互い、ムダな殺し合いをせずに済むんだよ。
そうすれば、多くの兵士の命を、救うことができる。
君の行動しだいで、人間だけでなく
『魔族の多くの命』を救う事ができるかもしれないんだ。
君だって、魔族の命を、救いたいんだろ?」

エクラーザは、下をうつむいたまま、何も答えなかった。
しばらくしてエクラーザは、ポツリと言った。

「敵である人間に協力して
『7色の神器』を売り渡すなんて事、そんな事、私には出来ない。
仲間の魔族を、裏切るなんてこと・・・そんなこと出来ない。」

このエクラーザの拒否回答を聞いたバルは、
明らかに落胆した表情を浮かべた。

これ以上、話す言葉が見つからず、バルが黙っていると、
バルとエクラーザの2人のやりとりを聞いていたデュークが、
口を開いた。

「説得に難航している、という報告を受けてはいたが・・・
やはり、その通りだな。
どうやら、我々が何を言ったところで
彼女は、我々に協力する気は、無いようだね。」

ここでデュークは、思い切ったように
勢いよく、話し始めた。

「もう、ここでハッキリさせよう、エクラーザ。
皇帝陛下のご命令により、
明日、君を『ミゲルクルス大陸』へ連れて行く。
これは、君の意思に関わらず、変更は出来ないのだ。
そして君には必ず、魔族への説得に当たってもらう。
しかし、もし君が、ミゲルクルス大陸に到着した後になっても
今の態度を固持して『魔族への説得』を拒否し続けるようなら・・・」と、
ここでデュークは、少し間をおいて、話を続けた。

「皇帝陛下は『君を処刑』するよう、ご命令されている。
このご命令は、他の尋問官が、すでに君に伝えている事なので、
君は、もう知っているとは思うが・・・
君には気の毒だが、これは皇帝陛下の、強いご意思であり、
我々には、どうすることも出来ないのだ。」

「処刑」という絶望的な言葉を聞いても、
エクラーザは、動揺した様子は無かった。
すでに覚悟は出来ているらしかった。

デュークは、言葉を続けた。
「エクラーザ、君は、まだ17才だ。
死ぬには、あまりに若すぎる。
悪いことは言わない。
頑なな態度は、君に何の利益も、もたらさない。
素直に翻意して、われわれ人間に協力したまえ。」

そしてデュークは、最後に言った。

「エクラーザ、君に伝えることは、以上だ。
我々は、これまで君に、十分、時間を与えてきた。
もう君に、残された時間は少ない。
後悔がないように、今晩、
じっくり、よく考えたまえ。」

***************************

バルとデュークは、地下牢を出て、エクラーザと別れた。

地上へ戻る帰り道、
バルはエクラーザとのやりとりを、思い出しながら、歩いていた。

敵とはいえ、自分と同じ年令で
死刑を言い渡されるのは、気の毒な気がした。

何度も、エクラーザとは話していて
彼女が、悪い魔族では無いことは、知っていた。

バルは考えた――
「処刑」という言葉を聴いても、自分なら動揺しないだろうか?
逆の立場なら、自分なら、どうするのか?
『敵に協力せよ、協力しないなら、死刑だ』と言われて、
『仲間を裏切れない』と、言い続ける事ができるだろうか?

自分と同じ17才の若者であるにも関わらず、
死を前にしても、毅然とした態度を崩さなかったエクラーザには
バルは正直、感心した。

バルは考えた――
明日、彼女は、どんな結論を出すのだろうか?

死の恐怖に屈して、態度を180度、変えてしまって、
敵(人間)への協力に、同意するだろうか。

それとも、あくまで、今までの姿勢を固持して
自らの若い死を、受け入れるのだろうか。
 
 
 

 

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